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運び屋

88歳のクリント・イーストウッドが実話をもとに、90歳の麻薬の運び屋を演じている、監督・主演映画。
僕もかつて運び屋をやっていた。
運んだのは麻薬ではない、海外の工場向けに日本から機会の部品や製品のパーツを運ぶ仕事。
急いでいる場合、もしくは大切な物は、ハンドキャリーといって、人が運ぶ。
メールや電話で
”今日の夕方からトロントいけますか?”
とか
”今日の15時までに空港行けますか?”
などと聞かれ、大丈夫と答えると、
通関書類とチケットの控えがFAXで送られてくる。
現地の気候を調べ、最少の着替えを持って空港へ行き、赤帽さんと待ち合わせをして荷物を受け取り、税関へ。
海外ロケの場合、2週間前までに機材のリストを作ってカルネを申請するので、よほどの緊急を要する時以外はいきなり出かけることはないが、
運び屋の場合、ここだけちょっと違う。
日常が突然遮られて非日常の世界に変わる感覚は、少し楽しい。
撮影の場合は現地に着いてからが仕事の本番なので、万が一機材を持って入れない場合、
撮影用の商品が届かない場合を想定したプランBを用意するので、到着までの緊張感はあまり無いが、運び屋の場合は一発勝負で届けなければならない。
便の遅れや、積載ミス、現地税関でのトラブル、荷受人と連絡が取れないなど、様々なリスクを負うので、その分緊張感があり、何かあった時の対応力が問われる。
プランBはほとんど無く、出たとこ勝負で対応する。
僕の経験では、リスクの多さNO.1はやはり中国。
中国国内を移動する場合、現地の通関業者に手続きをしてもらうのだが、その業者が音信不通になり、結局通関にやたらと時間がかかって次の便に乗り遅れたり、空港でカードをスキミングされたり、電車の切符を買おうと駅に行くと、もの凄い数の人が並んでいて、切符を手にするまでに3時間以上かかり、帰りの飛行機に乗り遅れ、夜中近くにホテルを探してウロウロする羽目になったり、
普通の旅行の時は余裕をもって行きましょうね。
さて、無事に荷物を届けると、帰りの便までは街をぶらぶら、僕はどこの街でも美術館を訪ねることにしている、やはり入館料は日本が一番高い。
変わったところではメキシコのミイラ博物館、土葬の習慣がある地方では、共同墓地の使用料を払う身寄りの無い屍体は掘り起こされて、状態の良いものは博物館で展示されている。
ずらっと並んだミイラはどれも苦しげに口を大きく開けている。はじめはあまりの不気味さにショックを受けるが、慣れというものは恐ろしい、館内を進むうちに、一体づつ、生前の面影を探して、この人は優しそうな顔をしてるなあとか、生き生きしたミイラもあるぞなどと、観察する余裕がでてきたりして、人間ってやつは。
映画「運び屋」の主人公は、物を届ける途中で寄り道をしたり、友達に会いに行ったりして
常にマイペースでのんびりだ、道中もラジオに合わせて歌を歌いながらのんびりとドライブ、これ、眠気防止にもなるんだよね、
ただ運び屋にしか分からない(?)独特の緊張感がじわじわ伝わってくるのは何故だろう。