- gaze
SOLACE ブレインゲーム
Updated: Sep 2, 2019

あなたは超能力をお持ちだろうか?
20代の中頃、僕はさる人物の家に居候
していた。その人物は、
米国海軍予備役、潜水艦艦長、軍医、
リストランテサヴィーニの料理人、
英国コヴェントガーデンバーテンダー協会認定メジャーグレード、
ブリティッシュレイランド所属の
レーシングドライバー、
英国ロイヤルシンフォニー
オーケストラスコアマスター、
ルーテル派教会牧師、
自称全ての経歴の持ち主であった。
全くもって胡散臭いの極みであるが、
夜な夜な語る彼の昔話は、
経験していないと語れないであろう
リアリティーに満ちていたし、
とても魅力的なものであった。
浜松の出版社との長期にわたる契約を終えて、東京に戻り暇を持て余していた僕にとって、
彼との生活は、最高に刺激的な毎日であった。
何しろ経歴が経歴なので、話のタネは尽きない。聞きたいこともたくさんあったし、
何を聞いても詳細に応えてくれるばかりではなく、わくわくするような冒険談の
おまけが付いてくる。
中でも駐在武官時代のハリウッド大女優との信じられないような恋愛話や、
潜水艦乗り時代に南洋の島でマラリアにかかり、島の娘に命を救われ、時を経て、
その島の娘が東京の自由が丘でクラブのオーナーをしているという話。
さすがにそれは無いだろうと、その店に連れて行ってくれと頼むと、ではこれから行こうと言い、実在したかつての恋人から延々と昔話をされる羽目に。
こうなるとハリウッド女優との恋話も信じないわけにはいかない。
レンタルビデオでその女優の主演映画をあるだけ借りてきて、
それを観ながら一晩中彼に昔話をせがんだ。
”もうこのぐらいにしよう”
と彼がいうと、僕は黙って彼のグラスにブランデーを注ぐ。
彼がグラスを揺らしてその香りを楽しむ間、僕は次のビデオをセットする。
そんな日々を送る中、ある時かれがこんなことを言った。
”君は超能力を信じるかい?”
”超能力ですか、実際にそんな人に会えれば、信じますね”
すると、彼はにやりと笑ってこう言ったのだ。
”だったら鏡をみてごらん”